いま多くの書店で、目立つところに平積みされている本があります。
カズオ・イシグロ氏の『クララとお日さま』です。
先日その本を読了しました。
この本のあらすじや、わかりやすいレビューなどは、それぞれのSNSなどでたくさん投稿されているので、そちらを参考にしてもらうとして、ここではネタバレなしで私の個人的な読後感を語りたいと思います。
ややライター寄り(書き手寄り)な内容となります。
やさしい伏線
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読みやすいフォントに、小さすぎない文字の大きさ。
むずかしい言葉の並びもなく、多くの人が順調に読みはじめられると思います。
すでに購入前に、本の帯や説明で「AI」が出てくることがわかっているので、なおさら入りやすいです。
この小説を読みすすめていくと、ところどころに「あ!」と思う箇所がいくつか出てきます。
なんとなく覚えのある場面、そういえば何ページか前に頭に浮かんだシーンなど、これまで特に意識をとめることなくスラスラと読み眺めた、あの場面のあの光景が、のちのストーリーの中でジワッと味をきかせてくることに多々気づかされます。
ミステリーでいえば、「伏線を張る」ということでしょうか。
この小説にも、さりげなく伏線が張られていて、
さりげなく伏線に気づかせてくれる。
その伏線は、物語のなかでさほど大きな役割もないのだけれど、そういう小さな変化(伏線)に読者が自分で気づくことができると、読んでいるこちら側もうれしくなったりします。(秘密の“当たり”を引いたような)
こんな風に、サラッと読者に発見を与えられる文章はオシャレだなと思います。
おりゃ!どうだ!とババーンとした種明かしでなく、気づいてもいいし気づかなくてもいい、気づいたらラッキーくらいの、こうしたライトなさりげなさに著者の品の良さを感じます。
スクリーンの映像を見ているかのような後半
![](https://mind-sentence.com/wp-content/uploads/2021/07/IMG_0807-2-1536x1152-1-1024x768.jpg)
前半部分は、テンポよくストーリーがすすんでいきます。
読んでいるときはあまり気にならなかったのですが、読了した今となってみれば、無駄な文章はひとつもなかったんじゃないかというくらい、スッキリとシンプルな文章で書かれていたように思います。
だからこそ、読みやすく、文字を追う私もスルスルと物語へと運ばれていったのでしょう。
さて。
私がここで取り上げたいのは、後半部分です。
この小説の後半は、もう完全に映像でした。
語り部の、ここまで至るまでの記憶が次々とせり上がってきます。
ここでも、前述した「あのシーンだ」「あの部分だ」「あのとき見たものだ」が、次々と私たちの頭の中に蘇ってくるのです。
いまこの瞬間まで忘れていた記憶だけど、なにかふとしたきっかけがあって一気に思い出されることって、私たちにもありますよね。(春の風のにおいで、クラス替えの緊張を思い出したり。夏の日差しで、幼い日の家族での海水浴を思い出したり。)
小説の中では、それらの五感を言葉を通して伝えてくれます。
はじめて読む人はもちろん、
時間をおいて再読する人も、
ぜひ、自分のなかに湧き上がる小説の情景を意識して、たのしんでみてください。
また違った読後感が味わえるはずです。
自信につながった本
![](https://mind-sentence.com/wp-content/uploads/2021/07/XT400844-1536x1024-1-1024x683.jpg)
ただでさえ今の私は文字を追うのに時間もかかり、理解までたどりつくまでも長いのに、見た目なかなか分厚いこの本を読み終わるのには、相当体力いりそうだと覚悟していました。
しかし、まったくそんなことはなく一気に読み終えてしまいました。
もともとこの著者の作品は好きで発売まもなく買っておいたのですが、どうせ読むなら一気に読みたいと思い自分の体調の様子をうかがっていたのでした。
GWに友人がこの本を読み終えたことを知り、「わたしも!」と読み始めた次第です。
いまはこの人、今度はこの人、とそれぞれ登場する人物に心を重ね読みすすめるなかで、自分の心の動きをも探ることができたと同時に、一冊読みきったという自信にもなりました。
私の平べったい言葉では表現しきれない「美しい奥行き」が、この小説にはあります。
よかったら手にとってみてください。
最後、読み終わってパタンと裏表紙を閉じたときの気分で、この記事を着地させます。
「うわぁ、こんなの書けない。」
(当たり前だ。比べなさんな、笑)
『クララとお日さま』
細かすぎない描写が、読者の想像をかき立てます。
(一方もしかしたら、断片的でわかりにくいと感じる人もいるかもしれません)
想像することが好きな私には、感情とAIを組み合わせるという視点が斬新で楽しめました。