雨の音や、雨の降りはじめの少しほこりっぽい匂いを感じると、家の中で過ごすための仕度をはじめたくなります。
おやつを用意して、
お茶のストックを確認して、
雨の音をBGMにどの本を読もうか・・・
想像するだけでワクワクする。
空からおちる雨が土へ染み込んでいくように、
私もまた、自分の中でうまく混じれなかったものが、雨とともに地面へ還っていくよう。
デトックスのような、
浄化のような、
リセットされるような。
そんな心地になります。
しとしと降る静かな雨の気配を感じると、思い浮かぶ本があります。
山田詠美さんの短編集『120%COOOL』のなかにある、『雨の化石』という小説です。
ちょうど雨の降る日のバスの中で、『雨の化石』をはじめて読んだのでした。
「美しい文章ってこういうことだ」
はじめて読んだとき、何度も何度も読み返しました。
きみたちは、雨に感動することが出来るかい?
『雨の化石』山田詠美
降り続く雨に、美しい人の溜息を聴くようなそんな無為な贅沢を味わったことがあるかい?
ぼくは、そのたびに歩みを止めて、しばし感動する。怪訝(けげん)な顔をして、ぼくを行き過ぎて行く人々。ぼくはかまわない。美しい瞬間が好きだ。宝石のような時を齧り(かじり)、ぼくは生きて行くことだろう。
雨なんてめずらしいことでもなく、梅雨時期はむしろマイナスなイメージしかありません。
けれど、この一節に触れると、そんな雨も日常にドラマを生み出す名脇役となっているのかも、と思うことができます。
雨の日の読書もそう。
雨だから家の中でできること・・・、じゃあ本でも読もうか。
そんな選択の一つとして本を手に取るのではなく、せっかくなら雨の音だけをBGMに、雨の匂いを感じながらページをめくる。
雨だから丁寧に紅茶をいれて、
雨だから文字の少ない行間を感じられる本をセレクトして、
雨だから少し窓をあけて、雨の香りを部屋に招いて。
本を手に取り、表紙をゆっくりながめてから1ページ目をひらく。
こうして「ゆったり」を演出して本を読むのもたまにはいいものです。
山田詠美さんの文章が美しく、現代文学なのに古典のような雰囲気があります。
『雨の化石』以外の短編も山田さん独特の空気がひろがり、「小説を読んでる感」に満たされます。
山田詠美さんは私の中の、いまどきだけど古風な「THE 小説家」なんです。
かっこいい…。