【雨の日の読書】雨音をBGMにひらきたくなる本
雨の音や、雨のふりはじめの少しほこりっぽい匂いを感じると、家の中で過ごすための仕度をはじめたくなります。
おやつを用意して、
お茶のストックを確認して、
雨の音をBGMに何の本を読もうか・・・
想像するだけでワクワクする。
空からおちる雨が土へ染み込んでいくように、
私もまた、自分の中でうまく混じれなかったものが、雨とともに地面へ還っていくよう。
デトックスのような、浄化のような、リセットされるような。
そんな心地になります。
* * *
しとしと降る静かな雨の気配を感じると、必ず思い浮かぶ本があります。
この本のなかに『雨の化石』という短編があります。
美しい文章ってこういうことだ、とはじめて読んだとき何度も何度も読み返したのでした。
ちょうど雨の降る日の、バスの中でのことでした。
きみたちは、雨に感動することが出来るかい?
降り続く雨に、美しい人の溜息を聴くようなそんな無為な贅沢を味わったことがあるかい?
ぼくは、そのたびに歩みを止めて、しばし感動する。怪訝(けげん)な顔をして、ぼくを行き過ぎて行く人々。ぼくはかまわない。美しい瞬間が好きだ。宝石のような時を齧り(かじり)、ぼくは生きて行くことだろう。
雨の日なんてめずらしいことでもなく、梅雨時期はむしろマイナスなイメージしかありません。
けれど、この一節に触れると、そんな雨もいろいろなドラマを生み出す名脇役となっているのかも、と思うことができます。
雨の日の読書もそう。
雨だから家の中でできること・・・、じゃあ本でも読もうか。
そんな選択の一つとして本を手に取るのではなく、せっかくなら雨の音だけをBGMに、雨の匂いを感じながらページをめくる。
雨だから丁寧に紅茶をいれて、
雨だから文字の少ない行間を感じられる本をセレクトして、
雨だから少し窓をあけて、雨の香りを部屋に招いて。
本を手に取り、表紙をゆっくりながめてから1ページ目をひらく。
こうして「ゆったり」を演出して本を読むのもたまにはいいものです。