【猫を棄てる/村上春樹】歴史は過去のものではない

発売前から、アマゾンのお気に入りに入れておいた『猫を棄てる 父親について語るとき』

けれど、最近は本を買うペースも早まり、読み待ちしている本がたまっていて、買っても読めるのか自信がなかったので発売日にすぐに買うことはしませんでした。

しかし。

子どものノートを買うのに立ち寄った本屋さんで、気になっていたこの本を手にとり、あとがきを読んで即買いしたのでした。
(私は本を選ぶとき、あとがきを読むことが多いです)

 

個人のサイトで、どのくらい引用が許されているのか分からないですが、少し取り上げさせてください。

僕がこの文章で書きたかったことのひとつは、戦争というものが一人の人間 ーごく当たり前の名もなき市民だー の生き方や精神をどれほど大きく深く変えてしまえるかということだ。

私はこの一文を読んだとき、瞬時に、今の現状と重なりました。
コロナウィルスです。

 

私たちは戦争を知りません。
教科書や授業で学んだり、終戦記念日にテレビで特番を見たりしたことはあっても、実際に体験したことはありません。

そんな私たちにとって、今は、まさに経験したことのないような戦争とも言えるのかな、と思います。
(実際の戦争よりも、全然構えがゆるいとは思いますが)
新型コロナウィルスは、見えない敵と呼ばれ、世界中の人たちがその波の中にいます。

コロナの波紋は大きいです。

私のたやすい言葉で表してはいけないほど、仕事や暮らしに大きく影響しています。

村上氏の“あとがき”にある戦争のように、コロナも「一人の人間の生き方や精神を大きく深く変えてしまっている」のです。

 

そして次の部分、

ここに書かれているのは、個人的な物語であると同時に僕らの暮らす世界全体を作り上げている大きな物語の一部である。
ごく微小な一部だが、それでもひとつのかけらであるという事実に間違いはない。

ここを読んだとき、ある本の一節と重なりました。

 

それは、『食べて、祈って、恋をして(エリザベス・ギルバード著)』の中で、友人が主人公(著者)に語りかけるシーンです。

あなただって天の一部なのよ。
この世をかたちづくるひとりで、天の営みに加わり、あなたの思いを神様に知ってもらう権利を持ってるわ。


『食べて、祈って、恋をして』

 

私たちは、歴史の一部であり、世界の一部であり、地球の一部であり(もっと言っちゃえば宇宙の一部でもありますよね!)、あの人の思い出の一部であり、誰かのある日の日記の一部であったりします。

誰もが自分の物語を生き、あるときは誰かのステージの隅っこに登場したりしている・・・。

 

この作品そのものは、とても短い文章です。

私は村上作品が大好きで、これまでもたくさん読んできましたが、この作品には何か今までと違う空気が流れているような印象を受けました。

ストーリーを楽しむものとも違い、
共感とも少し違い、
異空間へ導いてくれるものでもない。

あるひとりの作家が父親との回想をめぐり、
なにか扉が開き、言葉少なに語られ、
また静かに扉が閉じられていく。

そんな、束の間のひとときに立ち会える本でした。

挿絵も素敵です。

よかったら手に取ってみてください。

 

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